第六場 アラザの街


戦のために、傷ついた者。子を殺されて嘆く母親。親を捜して彷徨う子供達。
疲れ果て、飢えて、エジプトの残した爪痕は目を覆うばかりであった。
これらを、ダンスナンバーとして見せたい。
それらに混じるように、数名の幾らか身ぎれいな男女が立ち働いている。
嘆きのダンスが決まる頃、シャヌーンが、男と共に登場する。
先程の男女が、駆け寄ってくる。
男が、彼が王の息子シャヌーンであることを、説明する。
そのまま男(ラシード)の家に場面は移っていく。






第七場 ラシードの家

     
先程の男女は、王家の重臣達の子弟達であった。
ラシードは、シャヌーンの乳兄弟にあたる男で、妹のタチアナも、この集団の中にいた。
長い異国暮らしで、シャヌーンは気がつかなかったのだ。
名乗らない兄も兄だと、タチアナは文句を言う。 明るくはっきりとものを言う女性だった。
よくしゃべるタチアナに感心しながら、アリーシャとは、正反対だと考えていた。
ラシード達は、この国の現状と、これからの事、そして何故若い自分達が、このような町中に身を隠しているかを、語って聞かせる。
その中でも最も重要なこととして、ある人物にあって欲しいと告げる。
ある人物。それは国王の末の王子。シャヌーンの弟に当たる少年だった。
リシャールと名乗る少年は、シャヌーンの母の面影を宿す、まだ幼い王子だった。
彼を匿い、シャヌーンを連れ戻り、国の再建を若い彼らに国王は託したのだった。
たとえ、エジプトの支配を受けようとも、生き抜いて国を守って欲しいと、それは、国王の最後の言葉でもあった。
改めて、怒りがこみ上げる、シャヌーン。敵を討ちたいと望む彼を、ラシードは押しとどめる。
王が望んだのは、国の平和、民の幸せ。
そのために、何をなすべきか、考えて欲しいと訴える。
やり場のない怒りと、自らの無力さに、憤りを感じるシャヌーン。





第八場 アラザの街

リシャールとタチアナの、少し明るいナンバー。
僅かずつではあるが、二人は人々に食べ物を、配って歩く。
生きる力を取り戻し、人々はナンバーに加わっていく。苦しい現実の中。僅かな救い。不安の中でも、未来があると信じて。
シャヌーンやラシード達もナンバーに加わっていく。
いつの間にか、シャヌーンとタチアナを中心とした形でナンバー終了。
息を切らせて、明るく笑うシャヌーン。その様子を見て、温室育ちのお坊ちゃんと、からかう。
(ナンバー終了した所で、タチアナの肩を、自然に抱いている。)
照れ隠しなのだが、シャヌーンは、それをまに受けて腹を立てる。仲間達は、それを見てますます囃し立てる。
タチアナまで怒ってしまい、リシャールを連れて退場してしまう。
ラシードが、シャヌーンに現状を説明していく。
とにかく食べ物がないこと、親を亡くした子供が大勢いて、すべてを救うのは困難であること。
その間にも、身なりの良い彼らに物乞いにつきまとう子供達がいる。非情だが追い返すしかない。
王としての宣言を望むシャヌーン。
しかしそれは危険なため、暫く待つように、ラシード達に止められる。
麦を作ることも、羊を育てることも、働いて皆の役に立つことさえ、シャヌーンには出来なかった。
タチアナに馬鹿にされるのも、仕方ないと笑うシャヌーン。
ラシード達は言う、シャヌーンの存在こそが力になるのだと。国を立て直す道標なのだと、口々に訴える。
嬉しいのだが、素直に受け入れられないシャヌーン。
そこへエジプトの役人風の男達が現れる。商いをしている人々の店先を、回って歩いている。
何かを男達に手渡している者。ひたすら頭を下げ、許しを請う者。
なにがしかの取り立てであることは、間違いなかった。
暫く様子を見ていたが、手荒く扱われている、店主を見て、
ラシードの制止も間に合わず、飛び込んでいくシャヌーン。手向かわずに庇い続ける。
役人達は気が済んだのか、後日又取り立てに来る旨を告げ、立ち去る。
退場するまでにも、幾人から取り立てを続けながら去っていく。
ボロボロになったシャヌーンをラシードが助け起こす。
何時も何時も、何処へ行っても、自分の無力さと向き合わなければならないと、嘆くシャヌーン。
何も出来ない焦り、支配者ぜんとした、エジプトの横暴も黙って見過ごすしかなかった。





第九場 ラシードの家


タチアナが仲間の女達とおしゃべりをしている。
一見他愛もない男達の噂話だが、次第にシャヌーンの事に触れていく。
誉めているのか、呆れているのか、率直だが可成りきつい批評が飛び交う。
タチアナが最初に悪く言い出したはずだが、他の者に悪く言われ出すと、向きになって弁明しようとする。
他の女達は、タチアナの気持ちを知っているので、ますます面白がって言いつのっていく。(あくまでもかわいらしい悪口)
そこへ、傷ついたシャヌーンが、ラシード達と帰ってくる。手当のために慌てる女達。
タチアナは、理由を聞き出そうとする。そのうちに、速やかに用意がされ、二人を残して、他は退場する。
しつこく、問いただす、タチアナを煩わしそうにしながらも、手当を受けるシャヌーン。
タチアナの中で、はっきりと意識し始める、シャヌーンへの想い。
何時ものように、ポンポンと言葉を交わしながら、不安が広がるのを止めることが出来なかった。
そんなタチアナの気持ちをよそに、シャヌーンは、アリーシャやセイレムの事を語り出す。
あれ程苦しいと、嫌だと思っていた人質としての暮らしが、自分を守り育ててくれていたのだと、タチアナに話して聞かせる。
特にアリーシャとタチアナを比べるように話すので、次第にタチアナは腹立たしくなって、悲しくなってしまう。自分の知らないシャヌーン。
乳兄弟といえど身分違いである事実は、自分の気持ちに気づいた彼女には、残酷すぎた。
手当が終わり次第、何時もより邪険に、シャヌーンを扱う。
そんな彼女の気持ちに気づかない、シャヌーンは腹立たしげに退場してしまう。
タチアナの想いを込めたナンバーに。
タチアナのソロをバックに、シャヌーンとアリーシャの幻想のダンスがあっても良いかも。
タチアナを残して、静かに照明落ちる。




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